尋常性白斑

尋常性白斑とは

尋常性白斑とは、メラニン色素を生成する色素細胞「メラノサイト」が減少、あるいは消失することで、皮膚が白く抜けてしまう病気です。
私たちの皮膚の下には、異なる役割の層が何層も存在します。その中で、基底層という皮膚の深い部分には、メラノサイトが多く分布しています。尋常性白斑の患者は、このメラノサイトが減少するか、あるいは消失することで、メラニン色素が産生できなくなります。メラニン色素は、普段紫外線から皮膚を守っていますが、メラノサイトが少なくなった部分の皮膚は白く抜けてしまいます。原因は判明していませんが、生まれつきではなく、後天的な病気です。
尋常性白斑は、皮膚が白く抜けてしまう病気の中では最も起こりやすく、人口の約1%が発症する病気です。痛みや痒みはありませんが、まだら状に色が抜けてしまうのが特徴です。このため、患者の多くは外見に対して非常に辛い思いをされています。現在では症状によって様々な治療法があり、受診の際は「皮膚科専門医」が在籍する医療機関をおすすめします。

原因

尋常性白斑は単一の病気ではなく、多くの症状が影響し合った症候群とも考えられていますが、現時点で明確な原因は判明していません。様々ある仮説の中で有力なものを以下にあげます。

■ 自己免疫疾患説
自分の免疫が抗体をつくり、自分の身体を攻撃してしまうという説です。皮膚の色調をつくるメラニンは、色素細胞「メラノサイト」で作られます。しかし、身体の免疫が正しく働かないと、メラノサイト自体を攻撃する抗体や、はたらきを阻害するT細胞などの免疫細胞が作られるようになります。このために、メラノサイトで正しく皮膚の色がつくられず、白斑ができていると考えられています。
■ 色素細胞自己破壊説
メラニンが作られる途中の物質が、メラノサイトを破壊しているという説です。
メラノサイトではメラニンがつくられますが、その過程は複雑です。最初はアミノ酸であるチロシンから始まり、中間の物質である「産生中間代謝物」を経て、最終的にメラニンとなります。実は、この産生中間代謝物である、ドーパ、ロイコドーパクロム、ドーパクロム、DHI、DHICAなどの物質は、色素細胞にとって強い毒性があります。正常な体内では、これらの産生中間代謝物は、細胞内で無毒化されますが、尋常性白斑の患者は、この無毒化するプロセスがうまく働きません。自身の細胞の中で作りだした産生中間代謝物で、メラノサイトを破壊している可能性が考えられています。
■ 神経説
自律神経のバランスが崩れ、過剰な神経伝達物質がメラノサイトを障害しているという説です。精神的なストレス、または神経疾患であるウィルス性脳炎や多発性硬化症、特に「分節型での神経が通う部分の発汗」などは、自律神経のバランスが崩れていることのサインでもあります。それによって過剰に放出された神経伝達物質がメラノサイトを破壊している可能性が考えられています。
または、バランスが崩れ、カテコールアミンという物質が血液中に増えると、末端である皮膚の血管が収縮します。酸素を運ぶ血液が行き届きにくくなると、「活性酸素」という物質がつくられます。この活性酸素がメラノサイトを傷害している可能性が考えられています。
■ 生化学説
体内にもとからある活性酸素の酸化ストレスが、メラノサイトを傷害しているのではないかという説です。本来活性酸素は有害なもので、血流障害以外にも、日光暴露、外傷、ストレスなどでつくられます。健康な人の体内では、さまざまな抗酸化作用をもつ物質で、有害な活性酸素をいつも中和、不活化しています。しかし、尋常性白斑の皮膚ではこの抗酸化物質が減少し、メラノサイトが障害を受けている可能性が考えられています。

症状

まず、皮膚の色がまだらに薄くなる「不完全脱色素斑」が見られます。またそこからさらに色が抜け、白いシミのような「白斑」という状態の「完全脱色素斑」へと進行することもあります。白斑は、痒みや痛みはありませんが、次第に拡大したり、増加したり、白斑同士が癒合してひとつになることもあります。形や大きさは患者によって様々ですが、白斑の境界がはっきりとわかり、白斑周辺の正常な皮膚の色が特に濃くみえることが特徴です。
尋常性白斑は「分節」に対してどのように白斑が現れるかによって次の3つに大きく分類されます。

  • ①白斑が皮膚の分節に沿って現れる「分節型」
  • ②白斑が皮膚の分節に不規則現れる「非分節型」
  • ③混合型

※分節とは皮膚の表面を「皮膚文節」と呼ばれる領域で分けたもので、1つの脊髄神経根から伸びている感覚神経が支配する領域です。脊髄神経根は対になっており、全部で31対あります。

■ 分節型
白斑が明確に分節に沿って現れます。片側にのみ現れるのが一般的ですが、稀に左右両側に現れることもあります。若い方でも発症し、白斑に白い毛が見られます。好発部位は、顔面に現れ、そのうちの半数は白斑となります。他の好発部位としては、体幹・頚部・四肢にみられることもあります。尋常性白斑全体の5%~27.9%がこのタイプで、さらにこのうちの5%が悪化します。
■ 限局型(非分節型)
狭い範囲に1~数個の白斑が現れます。ごく限られた小さな範囲の場合、分節型と限局型の区別がつきづらいものです。このうち約10%は、後に拡大して「分節型」に移行すると考えられています。尋常性白斑全体のうち、最も少ないタイプです。
■ 汎発型(非分節型)
身体のあらゆる箇所に現れます。白斑は、体感・顔面が最も多く、次いで頸部・手・四肢に現れます。顔面の中では、額や髪の生え際・目や口の周囲に、またベルト圧迫部・脇・鎖骨部分そして外傷など、刺激を受けやすい箇所にもよく現れます。尋常性白斑全体のうち、約50%以上がこのタイプです。

治療法

尋常性白斑は以下のことを目標に治療を進めます。

  • ・100%色素の再生を目指す
  • ・周りの皮膚になじむ色合いにする
  • ・再生した色素をできるだけ淡く、コントラストをつけない
  • ・症状の再発がない
  • ・通院を少なく、治療期間を短くする
  • ・副作用を生じない
  • ・日常生活に支障をきたさない状態にする

当院では以下に紹介する外用薬や、内服薬、中波紫外線療法による治療法を行なっております。外用薬はやや効果が弱いですが、ほとんど副作用はありません。このため、軽症の方から重症の方まで用いられます。

■ ステロイド外用薬
ステロイドは炎症をおさえる作用があり、湿疹などに使われることが多い薬で、尋常性白斑にも有効という報告があります。同じ部位に長期間塗り続けると、皮膚が薄くなったり、毛細血管が拡張したりといった副作用を生じることがあります。症状が落ち着いたら外用を中止します。
■ プロトピック軟膏(タクロリムス軟膏)
出典:マルホ株式会社 医療関係者向けサイト
プロトピック軟膏(タクロリムス軟膏) は、身体の免疫反応を抑える抗炎症作用により、皮膚の炎症を抑えます。プロトピック軟膏(タクロリムス軟膏)の炎症を抑えるメカニズムは、ステロイド外用薬とは異なるため、紅斑や皮膚萎縮などの副作用がありません。そのため、ステロイド外用薬での治療が困難と思われる場合に有効です。
塗布の際にかゆみやヒリヒリするなどの刺激がありますが、次第に収まります。注意点として、皮膚がジュクジュクしているところや、口・鼻の中の粘膜部分や外陰部には塗らないでください。
■ セファランチン(内服薬)
抗アレルギー作用、血流促進作用、末梢血管を拡張、末梢循環障害を改善して毛根などに栄養を供給する作用などがある治療薬です。副作用が少なく、国内の診療実績も多いため、ほかの治療と併用します。
■ 中波紫外線療法

中波紫外線療法は紫外線の「免疫の働きを調節する作用」を利用した治療方法です。尋常性白斑のほか、アトピー性皮膚炎、掌蹠膿疱症、乾癬、尋常性白斑、円形脱毛症などの難治性疾患に有効です。照射範囲が患部に限られるので、健康な皮膚へ影響を与えることがありません。従来の紫外線療法で改善しにくかった皮膚病変にも効果があり、安全性が高いことも確認されています。

▶︎「中波紫外線療法」に関して詳しくはこちら

対処・予防法・注意など

特に制限はありませんが、火傷やケガなど、皮膚への刺激やストレスが発症の原因となりえる報告がされているため、無理をしないことが大切です。
また、日光はある程度避けるようにするのがおすすめです。これは日焼けで周りの皮膚と白斑とのコントラストが目立つのを避けるためです。